アスベストに関する法律は年々厳しくなっており、2021年、2022年、2023年と毎年改正されています。「法改正でどこが変わったのか?」「アスベスト法の詳細が知りたい」と思っている方も多いでしょう。今回は、過去のアスベスト法改正を振り返りながら「どこがどのように変わったのか」をわかりやすく解説しています。ぜひ、参考にしてみてください。
そもそもアスベストとはどういうもの?
そもそもアスベストとはどのようなものなのか分からない、という方もいるかもしれません。アスベストは「いしわた」「せきめん」とも呼ばれる鉱物の一つです。白く繊維状の見た目をしていて、軽くて風に飛ばされやすい特性があります。防火性・防音性に優れていることから「奇跡の鉱物」として、多くの建築物の天井や外壁、床などに使用されてきました。
アスベストの法規制が厳しくなっている背景
建築・解体作業時に吸い込んだアスベストは、肺の組織にとどまり、なかなか体外へ排出されません。長い間アスベストが肺にとどまっていると、石綿肺・肺がん・悪性中皮腫などの疾患を引き起こす可能性があります。潜伏期間が15〜50年と長期なことから、病院を受診した時点で症状が重症化していることも多いです。このような背景から、段々とアスベストの法規制は厳しくなり、2006年にはアスベストの使用・製造が全面的に禁止となりました。
2021年4月のアスベスト法改正の詳細
近年は、2021年、2022年、2023年と連続でアスベスト法が改正されています。まずは、2021年4月に行われた法改正の詳細を見ていきましょう。
規制対象建材の追加
アスベストは、危険度の高い順に1〜3のレベルが設定されています。改正前はレベル1、レベル2の建材のみが規制対象でしたが、改正後はレベル3の建材も規制対象になりました。レベル3が規制対象になったことによって、アスベストを除去するときの作業基準もはっきり明示されました。
直接罰の追加
法改正前は、アスベスト除去工事の作業基準を満たしていない者に対して行政命令を行い、それでも違反した場合に罰則が科せられていました。しかし法改正後は、作業基準に違反した者には行政命令を行わずに直接罰(3カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が科せられるようになりました。
調査結果保存の義務化
一定規模以上の建築物を解体・リフォームするときは、アスベストの有無を確かめるため、事前に「書面調査」と「目視調査」を行わなければなりません。事前調査で出た結果は、アスベストの有無に関わらず報告書にまとめ、3年間保存することが義務付けられました。
作業計画届提出の義務化
アスベスト除去工事を行うときは、工事を始める前に「作業計画届」を作成・提出することが義務付けられました。1〜3全てのレベルで作成・提出が必要です。
作業基準の遵守義務者の範囲拡大
法改正により、元請け業者だけではなく下請け業者も作業基準を遵守するよう義務付けられました。そのため、元請け業者は下請け業者に対し、アスベスト除去に関する適切な説明を行う必要があります。
2022年4月のアスベスト法改正のポイントをわかりやすく解説
続いて、2022年4月に施行されたアスベスト法改正のポイントを解説します。2022年4月の法改正では、アスベスト事前調査に関する規制が強化されました。
アスベストの事前調査結果が報告義務化
先述したように、一定規模以上の建築物を解体・リフォームするときは事前調査を実施しなければなりません。法改正により、この事前調査で出た結果を行政に報告することが義務付けられました。アスベストレベルに関わらず、どのような結果でも報告する必要があります。
調査報告が必須となる工事
事前調査の結果報告が必須となる「一定規模以上」の工事とは、以下の条件を満たした工事のことを指します。
- 建築物の解体工事(解体作業対象の床面積の合計80 ㎡以上)
- 建築物の改修工事(請負金額100万円以上)
- 工作物の解体・改修工事(請負金額100万円以上)
- 鋼製の船舶の解体・改修工事(総トン数20トン以上)
これらに該当する工事は、アスベストの有無に関わらず事前調査の結果を報告しなければなりません。
調査報告は原則「石綿事前調査結果報告システム」から行う
事前調査の結果報告は、原則「石綿事前調査結果報告システム」で行います。IDを作成すれば、オンライン上で簡単に報告が可能です。
調査結果は3年間保存する必要がある
2021年4月の法改正から引き続き、調査結果は3年間保存する必要があります。電子保存も可能ですが、元請け業者は発注者に対して調査結果を書面で説明しなければなりません。
2023年10月のアスベスト法改正のポイントをわかりやすく解説
2023年10月の法改正では、アスベスト事前調査に関する規制が更に強化されました。どのような点が規制されたのか、詳しく見ていきましょう。
有資格者による事前調査・分析の義務化
法改正前は、特定の資格がない者でもアスベスト事前調査の実施が可能でした。しかし改正後は有資格者でなければ、事前調査・分析を行うことができなくなりました。事前調査・分析を行うためには、以下のいずれかの資格が必要です。(資格によって作業できる範囲や建物が異なります。)
- 特定建築物石綿含有建材調査者
- 一般建築物石綿含有建材調査者
- 一戸建て等石綿含有建材調査者
アスベストの除去に関する補助金制度
自治体によっては、アスベストの除去に関する補助金制度を利用できる可能性があります。もし補助金制度を利用したい場合は、解体業者と契約を結ぶ前に自治体窓口に相談しましょう。
アスベストの解体工事に関する補助金は2種類
アスベストに関する補助金には「分析調査の補助金」と「除去工事の補助金」の2種類があります。自治体によって利用条件や交付金額は異なるため、事前に自治体に確認するのがおすすめです。
アスベスト分析調査の補助金
分析調査とは、書面調査・現地調査でもアスベストの有無が分からなかった際に行われる調査です。費用は約3〜6万円/1検体と高額で、負担に感じる方も多いでしょう。分析調査に関する補助金制度の概要は、以下の通りです。
- 対象建築物:吹付けアスベスト、アスベスト含有吹付けロックウールが施工されているおそれのある住宅・建築物
- 補助対象:吹付け建材中のアスベストの有無を調べるためにかかる費用
- 国の補助額:限度額は25万円/棟(自治体によって異なる)
アスベスト除去工事の補助金
アスベスト除去工事の相場費用は、300㎡以下で20,000〜85,000円/㎡、300〜1,000㎡で15,000〜45,000円/㎡、1,000㎡以上で10,000〜30,000円/㎡と高額です。アスベストが含まれている場所や材質によって、費用単価に大きく差があります。除去工事に関する補助金制度の概要は、以下の通りです。
- 対象建築物:吹付けアスベスト、アスベスト含有吹付けロックウールが施工されている住宅・建築物
- 補助対象:対象建築物のアスベスト等の除去、封じ込めまたは囲い込みにかかる費用
- 国の補助額:地方公共団体の補助額の1/2以内、かつ全体の1/3以内の額
まとめ
アスベストは「奇跡の鉱物」として様々な建築物に使用されてきましたが、健康への悪影響が明らかになり、現在は使用禁止となっています。アスベストに関する法律は年々厳しくなっており、近年は2021年、2022年、2023年と連続で法改正が行われています。2021年は規制対象の建材の追加、罰則について、調査結果の保存についてなど、基本的な規制が大きく変わりました。2022年、2023年は事前調査の規制が厳しくなり、調査の実施・結果報告が義務付けられました。アスベストの調査・除去は高額な費用がかかることが多いですが、補助金などを利用しつつ、必ず実施するようにしましょう。補助金には「分析調査の補助金」と「除去工事の補助金」があり、自治体によって利用条件や補助額が異なります。調査・除去工事を実施する前に自治体の窓口に相談するのがおすすめです。