アスベストに対して「身体に悪そう」「病気の原因になる」といったイメージを持っている方も多いでしょう。実際、アスベストによる健康被害は多数報告されています。本記事では、そんなアスベストの種類や特徴、危険性を分かりやすく解説しています。健康被害を防ぐためにも、アスベストについての知識を身に着けましょう。
アスベスト(石綿)とは?
アスベストは「石綿」と表記されることもあり、「いしわた」「せきめん」とも呼ばれています。まず、アスベストはどのような物質なのか、アスベストにはどんな危険性があるのかを解説します。
アスベストは天然に存在する繊維状の鉱物
アスベストは、天然の鉱石の中に存在している繊維状の鉱物です。ネットでアスベストの写真を検索してみると、細い糸のようなものが枝分かれしているのがよく分かります。目には見えない小さな物質ですが、建築現場ではセメントと混ぜ合わせた「吹付け材」として重宝されていました。
以前は奇跡の鉱物と呼ばれていた
アスベストは「奇跡の鉱物」と呼ばれ、建物の鉄骨や屋根、外壁・天井などに用いられてきました。アスベストには以下のような特徴があり、建築現場では欠かせない存在でした。
- 熱に強い
- 薬品に強い
- 摩擦に強い
- 燃えにくい
- 耐久性が高い
- 加工しやすい
- 値段が安い
1970年代から徐々にアスベストが問題視され始めた
1970年代に入ると、徐々にアスベストの危険性が指摘されるようになりました。アスベストを吸い込むと、肺の中にアスベストがとどまり、様々な病気の原因になることが明らかになったのです。さらに、それらの病気は潜伏期間が長く、アスベストを吸い込んでから15〜50年後に発症すると言われています。
アスベスト(石綿)によって引き起こされる健康被害
アスベストの吸入によって引き起こされる疾患は「石綿(アスベスト)肺」のほか、「悪性中皮腫」「肺がん」「びまん性胸膜肥厚」「良性石綿胸水」があります。過去にアスベストに関する仕事・作業をしたことがある場合は、これらの病気を発症する可能性があります。
石綿(アスベスト)肺
石綿(アスベスト)肺は、肺が線維化する病気です。病状が進むと呼吸困難に陥ることがあります。潜伏期間は15〜20年と言われており、アスベストの粉じんを10年以上吸入していた方は注意が必要です。治療法は、薬物療法・在宅酸素療法などの対症療法が主となっています。
悪性中皮腫
悪性中皮腫は、肺の周りにある胸膜や、肝臓・胃などを囲む腹膜などにできる腫瘍です。まれに、心膜や精巣鞘膜にも腫瘍ができることがあります。胸膜に腫瘍ができた場合は、息切れ・胸痛、腹膜にできた場合は、腹痛・腹部膨満感の症状がみられます。潜伏期間は40〜50年と長く、特に若い時期にアスベストを吸い込んだ方が発症しやすいと言われています。
肺がん
肺がんは喫煙が原因で発症するイメージの病気ですが、アスベストによっても発症することが明らかになっています。潜伏期間は15〜40年と幅広く、咳・痰・血痰の症状がみられることが多いです。治療法には、外科治療、抗がん剤治療、放射線治療などがあります。
びまん性胸膜肥厚
びまん性胸膜肥厚は、肺を覆う膜が線維化し炎症を起こす病気です。同時に胸壁も炎症し、癒着していることが多いです。潜伏期間は40〜50年と長く、効果的な治療法はありません。呼吸困難・胸痛が進行していき、最後には呼吸不全に陥る可能性が高いです。
良性石綿胸水
良性石綿胸水とは、胸に体液が溜まる病気です。潜伏期間は平均40年と長く、自覚症状がないこともあります。胸水は約3〜6ヶ月で自然に消失するため、水がなくなれば呼吸困難・胸痛などの症状もおさまります。まれに、胸水がなかなか消失せず、呼吸機能に障害が残るケースもあり、慎重な治療が必要です。
アスベスト(石綿)の種類
アスベストは主に6つの種類に分けられ、それぞれ以下のような特徴があります。
名称 | 特徴 |
クリソタイル(白石綿) | ・世界で使用された石綿の9割以上を占める・抗張力が高く、耐薬品性が低い |
アモサイト(茶石綿) | ・茶色が混じった見た目をしている・主に断熱保温材に使用された |
クロシドライト(青石綿) | ・青色の見た目をしている・毒性が高い |
アンソフィライト石綿 | ・不純物として含まれている・耐薬品性が高い |
トレモライト石綿 | ・不純物として含まれている・主に吹付けアスベストとして使用された |
アクチノライト石綿 | ・不純物として含まれている・緑色の見た目をしている |
日本で主に使用されていたのは「クリソタイル(白石綿)」「アモサイト(茶石綿)」「クロシドライト(青石綿)」の3種類です。中でもクリソタイル(白石綿)は、世界で使用されたアスベストの9割以上を占め、ほとんど全ての石綿製品の原料になっていました。
現在は全てのアスベストの使用・製造が禁止されており、発がん性は「クロシドライト(青石綿)」が最も高く、次に「アモサイト(茶石綿)」「クリソタイル(白石綿)」が高いとされています。
アスベスト(石綿)の3つのレベルと特徴
アスベストは、危険性によって1〜3のレベルに分けられています。それぞれの詳細と特徴を見ていきましょう。
レベル1
レベル1のアスベストは、最も発じん性が高く、繊維が飛散するリスクも高いです。レベル1に該当する「吹付け材」という建材は、主に駐車場や学校、工場に使用されていました。解体やリフォームをするときは、厳重な飛散対策が必要です。
レベル2
レベル2のアスベストは、レベル1より危険度が低いものの、発じん性・飛散性は十分に高いです。レベル2に該当するのは「保温材」や「耐火被覆材」で、主にボイラーの配管などに巻き付けて使用されています。配管ごと切断できるため、吹付け材よりも除去が簡単です。
レベル3
レベル3のアスベストは、レベル1・2に比べて発じん性・飛散性が低いです。レベル3に該当するのは「成形板」と呼ばれる建材で、建物の屋根や天井、床などに使われています。レベル1・2に比べ、比較的簡単な飛散対策で解体が可能です。
アスベストの簡単な見分け方
現在アスベストの使用は禁止されていますが、使用禁止になる前に建てられた建物には、アスベストが使われている可能性が高いです。ここでは、アスベストを簡単に見分けるポイントを解説します。
形状や色を確認してみる
まずは、物質の形状や色を確認してみましょう。天井や梁から線状に垂れ下がっている場合は、レベル1にあたる吹付けアスベストの可能性があります。吹付けアスベストの色は、青・灰色・白・茶色のため、合わせてチェックしてみてください。
築年数を確認する
1956〜1975年頃に建てられた建物は、吹付けアスベストが使用されている可能性が高いです。1975〜1990年頃はアスベストに規制がかけられ、吹付けロックウールが主となりましたが、中にはアスベストが混ざっていることもあります。
手で軽く触れてみる
アスベストかも?と思ったら、手のひらに乗せて指でこすってみましょう。アスベストの場合は、指でこすっても繊維が残っています。触るのは怖いと思う方もいるかもしれませんが、手で軽く触れる程度であれば危険ではありません。
お酢をかけてみる
お酢を使ってアスベストかどうかを確かめる方法もあります。ロックウールなどはお酢をかけると溶けてしまいますが、アスベストはお酢をかけても溶けません。ただし、ロックウールの中にアスベストが含まれていることもあるので、注意しながら確認しましょう。
アスベスト(石綿)に関連する法律
アスベストに関する法律は年々厳しくなり、数多くの法令でアスベストの規制が制定されています。アスベストに関する法律は、以下の通りです。
大気汚染防止法
アスベストの粉じんを「大気汚染物質」として扱い、作業基準を定めたり、作業の届出を義務化したりする法律です。近年は、2021年、2022年、2023年と3年連続で法改正されています。
労働安全衛生法
事業主に対して、労働者の健康・安全を促進させる法律です。アスベストによる健康被害を防ぐために、事前の作業説明や飛散対策が義務付けられています。
石綿障害予防規則
事業主に対して、アスベストによる健康被害を防ぐよう義務付ける法律です。建築物を解体するときは、アスベストの封じ込め・囲い込みをするよう定められています。
建築基準法
衛生上、アスベストや、その他の物質の飛散をきちんと対策するよう定めた法律です。
アスベスト(石綿)の法規制の歴史
アスベストに関する法律は、長きに渡って法改正を繰り返してきました。これまでどのような法規制が制定されてきたのか、歴史を振り返ってみましょう
年号 | 内容 |
昭和50年(1975) | ・「特定化学物質等障害予防規則(特化則)」が改正・石綿5%以上の吹付け作業が禁止に |
平成7年(1995) | ・「労働安全衛生法施行令」が改正・アモサイト、クロシドライトなど一部のアスベストが製造中止・「特化則」の規制強化で、石綿1%以上の吹付け作業が禁止に |
平成15年(2003) | ・「労働安全衛生法施行令」が改正・クリソタイルなど一部のアスベストが使用禁止 |
平成17年(2005) | ・「石綿障害予防規則(石綿則)」が制定・アスベストの事前調査・解体ルールが規定 |
平成18年(2006) | ・「石綿則」等が改正・一部を除きアスベスト含有製品の製造禁止 |
平成25年(2013) | ・「建築物石綿含有建材調査者講習」を創設 |
令和3年(2021) | ・「大気汚染防止法」が改正・アスベストの規制を更に強化 |
令和4年(2022) | ・「大気汚染防止法」が改正・事前調査の結果報告が義務化 |
令和5年(2023) | ・「大気汚染防止法」が改正・有資格者による事前調査が義務化 |
アスベスト(石綿)に関するよくある質問
最後に、アスベスト(石綿)に関するよくある質問と回答を紹介します。アスベストを吸い込んでしまったときや、身体への影響が不安なときは、近隣の労災病院等など専門の医療機関を受診しましょう。
どれくらいの量のアスベストを吸ったら人体に影響がある?
現時点では、どれくらいの量で病気を発症するかは明らかになっていません。しかし、アスベストを吸い込んだ時期や年数によって、それぞれ発症しやすい病気が異なることは分かっています。例えば仕事で10年以上アスベストを吸入した方は石綿肺、若いときに吸い込んだ方は悪性中皮腫を発症しやすいとされています。
吸引したアスベストを除去することはできる?
吸引したアスベストは、痰に混じって体外に排出されます。しかし、大量にアスベストを吸い込んだ場合は、除去されずに肺の中に蓄積すると言われています。
アスベストを吸い込んだ可能性がある場合はどこに行けばいい?
「アスベストを吸い込んだかもしれない」と思った方や、既に呼吸困難・咳・胸痛などの症状がある方は、近くの労災病院など専門の医療機関に相談しましょう。
アスベストの健康への影響はどこに相談すればいい?
過去にアスベストを扱う仕事に従事していた方など、健康への影響が心配な場合は、保健所や各都道府県の産業保険総合支援センター、労災病院に相談しましょう。アスベストによる疾患は潜伏期間が長いため、1年に1回は健康診断を受診するのがおすすめです。
ロックウールやグラスウールとの違いとは?
アスベストは天然の鉱物ですが、ロックウールとグラスウールは人工素材です。見た目はよく似ていますが、ロックウールとグラスウールは肺に入りにくく、これまで健康被害も確認されていません。手で触れたときに、繊維が保たれていればアスベスト、粉々になったらロックウール、チクチクしたらグラスウールと覚えておくとよいでしょう。
まとめ
アスベストは「石綿」とも呼ばれる天然の鉱物で、繊維状の見た目が特徴的です。以前は「奇跡の鉱物」として重宝されていましたが、健康への悪影響が明らかになり、石綿肺・悪性中皮腫・肺がんなどの疾患の原因になることが判明しました。そのような背景からアスベストに関する法改正が繰り返され、現在は使用が禁止されています。アスベストには主に6つの種類があり、中でもクリソタイル(白石綿)は、9割以上の石綿製品に使われていました。アスベストか否かは、形や色・お酢への反応で簡単に見分けられます。もしアスベストによる健康被害に不安がある方は、労災病院や保健所に相談をしてみましょう。